ちいさなうさこちゃん ディック・ブルーナ 文・絵 / 石井 桃子 訳 福音館書店 700円+税
息子のはじめての絵本はこの本でした。
まだ首が据わったぐらいの時から読んでいます。
赤ちゃんだった息子を膝に乗せて、この本を何度も読み聞かせていました。
今思えば、息子には絵本が見えていたのかも怪しいものです。
まだぼんやりとしか、目は見えてなかったのかもしれなません。
それでも、あの頃の私は早く自分の子どもと本が読みたくてしようがなかったのです。
今思い返しても、とても幸せな時間でした。
息子はといえば、じっと絵本を見ていました。
同じくこちらをじっと見ているうさこちゃん。
“常にこちらを向いている“ことはディック・ブルーナさんのこだわりです。
ぼんやりとしか見えていなくても、あのはっきりしたブルーナカラーに惹きつけられているようでした。
そして、うさこちゃんも息子をじっと見ていたから。
はじめてみる動物たちが優しくこちらを見ていることに目が離せなかったのでしょうね。
いつだったか、ディック・ブルーナの特集番組がテレビで放送していました。
あの黒い少し震えた太い線を、ディック・ブルーナが細い筆で少しずつ少しずつ、とても時間をかけて描いていて驚いた事を覚えています。
シンプル=簡単にできる、という訳ではありません。
そして、丹精を込めて作られた物は、やはり長く愛されるということですね。
その熱意は海を渡って、受け継がれていました。
この福音館書店の日本語版も、印刷でのブルーナカラーの再現に注力していたり、フォントを作成したり、たくさんのプロのこだわりの仕事が詰まっているのだそうです。
うーん、贅沢。
絵本のブログを書くようになり、絵本を作る人の記事を読む機会が増えたのですが、いつもその熱意に心打たれます。
子ども対して真剣で、なんとういうかホントに子ども達の為にありがとうございます、と思います。
ちなみに装丁は祖父江伸さんです。
うさこちゃん、という名前一つをとってみても。
“ふわふわ うさこちゃん“
“ふわふわさん“ に、
“ふわおくさん“。
石井桃子さんの名づけセンスの素敵さ、可愛らしさったら。
そう思っていましたが、原文では “ナインチェ・プラウス“ という名前で、
オランダ語では “うさぎちゃん・ふわふわ“ という意味なのだそうです。
“ミッフィー“ は英語の翻訳用の名前で、本場オランダでは “ナインチェ“ と呼ばれていました。
石井桃子さんは、忠実に原文を翻訳していたのでした。
調べてみると、オランダ大使館に出向いて発音を聞き、音のリズムを調べたり、直訳してみたり、オランダ語の原文をとても大切にしていらしたようです。
ここにもプロのこだわりです。
改めて調べてみるとすごい絵本でした。
私には赤ちゃんだったころの息子との、
温かい思い出が詰まった一冊です。
その一冊は、これから生まれてくる子どもはもちろん、すべての子ども達への祝福が込められた一冊だったのです。